「いつの間にか、同じようなヘッドが溜まって、もう使う気がしないので・・・・」と今年教職を円万退職なさった方がBeforeを持参しつつ、何を創るか?相談くださった。
「指輪とヘッドをお揃いで使える様に創られたら、ダイヤですからどの洋服にも合うし、便利だと思いますが・・・・」
「そうねー!じゃあ18金でお願いします」
ということで、デザイン画を描いて見積もりを出す為に1週間程待って頂いた。
この御方は、微笑みを絶やさない明るい方で、少し話しをしただけで"根っからの子供好き"が窺い知れ、教育者としての人生は正に天職だと思われた。そして今はガーディニングやら他にご趣味でもお有りなのか、生き生きなさっていらっしゃる。
"今は使えない"というAの無機質な品々を見て、天職とはいえ勤めあげる迄には、何回も自分を励まし、励まししてこられたんだナー、と感じた。
今から使えるもの・似合うものは、自由で自然で、明るいデザインでなくては、と思えた。指輪は、薬指の付け根の流れに寄り添う自然の曲線にした。
状況の変化で脳内に変化が起きると、病状等にも変化がある事は、今や医者の認定済みだが、生き方や好みが変化するのも自然なことと思える。
中学1年生の時、特別仲の良いKちゃんがいた。同じ合唱部に入り、毎日一緒に帰り、彼女の家に寄って"おやつ"などを頂いてから自分の家に帰った。彼女の家は歯医者で憧れのピアノがあった。当時何を話題にしていたのか、全く記憶にないが、優しい御母様の笑顔とKに愛情を注ぐ様が、後々まで想い起こされ、放任主義の我が母親とは余りにも違うなと、羨ましかった。
私が全寮生の高校へ進学し、結城を離れた後は、すっかりのご無沙汰であった。今年の2月に、結城の紬問屋㈱奥順の喫茶画廊"壱の蔵"で、師のシャンソンコンサートが催される事になり、2曲だけ私も歌うことに・・。魂が喜びのうちに終了し、思い掛け無くも花束を下さる方々がいて、その中に47年ぶりのKちゃんがいた。
2週間位後、Kちゃんは「帯留めを創りたいの」と、御母様から頂いたものを持って来店。シルバーの方が安くできるというと「プラチナでしたいの。良い物をしてると気持ちが嬉しいのよ」という。聞けば42歳でご主人に先立たれ、独りで息子さんを育て上げたという。本人もさりとて「御母様もどんなに辛かったろうに・・・」と念われた。
今彼女は着付け教室の副校長で着物人口を増やそうと奔走中。
ご主人の指輪を、「娘が使える様にリフォームしたい・・・・」という御希望で、ご主人の一周忌が済んだ知り合いの方が、娘様をお連れになった。
ご主人は体格の良い方だったので、どっしりとしたプラチナの指輪は16gも有り、指サイズが8.5番の35歳の女性には、とても使えない。宝石(ダイヤ)を指輪からはずし、その重い地金は売って、加工代金に充てる様にしましょう!という事に。
※ 当店では、加工を依頼下さる方に限っては、地金の買取をサービスで行いますので高価格になり、大変喜ばれています。
そして、「娘様に似合い、適切な重さのもの」を見極める為に、当社で開発した8~9番用の様々のリングを嵌めて頂いた。
ご本人の好みも、似合う物も幅広の存在感のあるリングなので、上側半分は幅広になっており、下側(手の平側)は少し細めで手の屈伸が楽に出来るものをお勧めした。
これなら重量がかるくなり、しかも幅広リングの欠点とも言うべき空気の流通悪の解消と、中央にセッティングする主役のダイヤを、より主役たらんとする為にピッタリの空間が中央にある。
中央のダイヤ枠は、女性らしい花型を、周囲には小粒ダイヤを入れたいとご要望。出来上がる迄が待ち遠しかった様であり、創る側にも喜びが伝わっていた。
2年前に立爪の婚約リングをリフォーム下さったF様が、そのリングに合わせて使用したいというご希望で、ピアスとペンダントヘッドのリフォームを注文くださった。
そしてご主人からプレゼントされたというアメジストのペンダントへっドも、「デザインが好きじゃないので・・・・」と申し分けなさそうにおっしゃり、「似合うように・・・」という事に。
F様は、20代の三人のお嬢様をお持ちで、来店の折りには、一人か二人の方が御一緒する。肌のつや・目の輝き・弾んだ声、それはもう華やかで「若いっていいですねー!!」と度々言葉にしてしまい、きょとんとした大きな目が、(なぜ?)という疑問を返してくる。
今回も出来上がりを取りに、お二人が一緒であった。F様は、顔を上気させ「こんなになるなんて!!」「私興奮してるわ!」と言い、お嬢様達の歓声がそこに入り交じって、作り手側にとっては涙のでるほど嬉しい賑やかさであった。
アメジストのヘッドを着けて店を出たF様は、車の運転席側へ行ってコツコツと窓をたたき、お待ちのご主人様に胸元をおみせしてニッコリ。お嬢様達の華やかさも可愛らしさも、御母様ゆずりの"宝物"のような気がした。
沢山の指輪を所持なさっているにもかかわらず、なぜか?どこか?満足できない!!と感じてらっしゃる方が来店。「この様な指輪創れますか?」と携帯の写真を開け、小指にセットされた指輪を見せた。
「どこが好きですか?」と聞いてみると、
「シンプルで空間があるから・・・」
「あのー、御自分の手の特徴に気づいていらっしゃいます?」と聞くと、
「いえ?・・・・」と答えられた。
「はからずも、この様なタイプの指輪は、貴方の薬指には、最適だと思いますが・・・・」といって、薬指に最適な理由を説明し、手に密着するように実物大のスケッチをしてみせた。
「画だけでは・・・なんとなくしかわからない・・・」ということで、「シルバーで見本を創ってみす・・・・・」ということに。
後日シルバーで制作の見本を嵌めて頂くと、指サイズ7番の方なので「もっと華奢にした方が・・・」とのご要望。2連の部分を1連にし、プラチナでお納めした。
さらに後日、同じ様に薬指の付け根が、中指側と小指側に1cm位の差がある方が来店し、シルバー見本よりボリュームのあるものが、この方には良く似合った。
団塊の世代の、夫に先立たれた方が友人とご来店。ご主人に頂いたリングと自分で買ったヘッドをお持ちになり、両方一緒にして"何かしっかりしたものを・・・・」とご相談。
当店のオリジナル品を見て戴くと、八角形のシンプルなペンダントヘッドを気に入って下さる。このヘッドに、お持ちのピンクとブルーの石を配置したラフスケッチを描いてお見せすると、嬉しそうに微笑んで下さった。「たぶんお似合いだろう・・」と思いつつ描いたのだが、ご本人もそう思われた様であった。
こんなリフォームの光景は、娘夫婦が入る以前から続いてきており、依頼者と作り手が「ぴたり」と合点し、意気投合して仕事に入るので、"本当に気に入ってもらえるだろうか"という不安を退けるエネルギーが漲って義務感を全うできた。
ジュエリーデザインに縁を得て40年目を迎えたこの頃、「この様な状況はいつまで続くのであろうか?」という不安の芽が起こりつつある。"人を信用しない"、"助言は聞かない"という類の少数の人に出会う様になった。
とにかく、楽しく仕事を続けてこられたのは、依頼者の方々のお陰であると強く感じる様になった。
「長女の二十歳の誕生祝いにペンダントヘッドを創りたい・・・」と今まで使っていた品々を持参で、ご夫婦揃って来店。
当店のオリジナル品を何回も見渡して、葉っぱに文字や絵や宝石を留めて記念日に送るヘッド(大小5枚の葉があり重ねられる)を気に入って下さる。お二人が肌身離さず着用しているしっかりしたチェーンに、「娘の幸せをいつも想える葉っぱのヘッドを創りたい!!」という事に。
見積もりの為に、デザイン画を起こす。娘様のは、幸せの象徴四つ葉のクローバーを18金で創り、表面にご両親の頭文字を1文字ずつ刻む。ご両親のは、娘様お二人の頭文字を1文字ずつ印した四つ葉のクローバーを葉っぱ貼り、ご夫婦のイニシャルは向かい合う様に葉に印した。
「幸せな人達だなー!!・・・」と、ご相談中感じていた。見事に好みも意見も一致し、終始にこにこ顔が絶えない。長女が二十歳という時点で、"去っていくだろう"と予感し、去る人へのプレゼントと、去られる側の準備をもして、喜びつつ将来を受け入れている。
「貴方達、喧嘩したことないでしょう!!」と言うと、お二人共否定せずに相変わらずのにこにこ顔であった。
「ママがいくら一生懸命子供の為に働いてくれても、疲れた顔はイヤなんだよ」長男の高校の時の言葉が思い出された。
常磐線と水戸線を乗り継いで、美しいご婦人がリフォームの為来店された。
50歳過ぎて教師になったという、異色の経歴にも驚いたが、持参されたリングの華やかさやお話しから、ドラマティックな若かりし頃の人生場面を、興味深く窺い知る事が出来た。
「指輪は、派手過ぎて幅が太くてはめにくいので、シンプルに・・・・」
「残ったダイヤでペンダントヘッドを・・・」
と依頼下さった。
ヘッドは、当店のリフォーム集(計6冊有り)をご覧になり、以前"ルビー"をリフォームなさった方の出来上がり作品を指して、「この様な感じに出来ませんか?」とおっしゃる。
「では、ご持参のお品から宝石を全部はずし、その宝石を使用した場合の、指輪とヘッドの完成図をファックスします。見積もりも付けて・・・・」とお答えした。
「遠くから来た甲斐がありました!!」と帰られて後、外した宝石を1個1個並べて、実物大の絵を描く。テーパーと呼ぶ細長い台形のダイヤは、細さも長さもみな違うので、大変な作業ではあった。
図面通り・見積もり通りに仕上がった指輪は、指の収まり具合が良く重過ぎず、当店の制作上での"学び"も得た。取りに見えた時、ケースを開けたとたん"ウワー"という歓声がして、私たちの緊張は吹っ飛んだ。
遠方から、三人の御子を車に乗せて来店の落ち着いた若い御母様が「主人が亡くなったので、毎日励みになる指輪を創りたい」という。
三人共が就学前で、長男さんも次男さんも子供とは思えない程の静かな態度で、末娘の一歳半位の女の子を抱いた母親と一緒に、リフォーム相談のテーブルを両脇から囲んでいた。あたかも母親の付き添い役を務めているかのような、初めて見る不思議な光景であった。
女の子が一歳位の時に"食道癌"がみつかり、すでに末期症状であったという。逝く人の無念な想いがいかばかりか想像しかねたが、二人の男の子の優しい目と静かな態度の中に、ご主人の想いが表れているのかも知れない・・・、あるいは父親から「母を守る様に」と遺言されたのかも・・・・等と思ってみた。
菓子にも手をつけず椅子から離れようとしない三人を、猫を連れてきて日の当たる方へ呼び寄せると、優しい目から優しい声が聞こえる様になった。兄達は、「あーちゃんが笑ったよ!!」「あーちゃんが・・・・したよ!!」と女の子を姫の様に大切に扱う。
人間の一生は"平等"と言われるが、"あーちゃん"は、父親から受けるはずだった愛情分も間違いなく得られる、と感じた。
①は、以前リフォームをご依頼下さったお母様が、"御子息の嫁"を同伴されての御来店。「結婚が決まったので、お二人に似合う指輪を作って上げたい」と、手持ちのヘッドを持参された。「学生時代からよく遊びに来ていたし、もう娘同然・・・・」という。プロポーション抜群で指の長い彼女は、小指と薬指の間がかなり下がっていて普通のリングは似合わない。
「貴方にぴったりのリングが出来るからねー」という義母の言葉に、終始笑顔で目を光らせていたが、出来上がり時の喜び様には、お母様も相当嬉しかったに違いない。
②は、「パールのリフォームできますか?」と事前に電話の予約があり、婚約者をわざわざ岐阜から呼んでの来店だった。現在居住の宝石店を5件廻ったけど受注できる店がなく、HPで当店を知ったという。聞けば対馬のご出身とかで、パールの養殖が盛んなので、母からこの指輪を譲られたとの事。
対馬は、漁業の島で若者は出ていき老人が多い、働かなくても隣人の情けで何とか生きていける所、等々、出来上がりを取りに来た彼から、見知らぬ処の話を聞いて行ってみたくなった。40分でいけるという韓国からの観光客で、今島は賑わっているという。