微笑みながら入って来られた。通りに設置の当店の赤い看板を時折見ていて、「長い間しまっておいた母の形見を持って来たのですが・・・」とおっしゃった。シンプルなアメジストリングで「私には大き過ぎて似合うかどうかわからないのですが、石の色が好きなもので・・・」と。
目を大きく見開いてお話しなさるとき、女性の愛らしさと正直さが見えていた。「今はリングの幅が細いので特別大きな石に見えますが、デザインの仕方でお似合いになりますよ」とお答えする。「着物でも似合うように・・・」と要望なさった。
三ヶ月程たって程たって取りに見えた時の感激ぶりは忘れ難い。目を丸くなさって話し続けた。「いつかはこの石をと思っていました・・・。私は可愛いのが好きで・・・、こんなになるなんて・・・、これなら私にも使えます・・・」とまるで童女の様に喜ばれ、私も有り難く嬉しかった。
大きなアメジストの石枠の左右をハート形に切り抜いて紫色が見える様にしたのは、愛らしさの演出ではあるが、この石を残された母親の愛が、娘の手に放射されれば、と考えての事であった。
たぶんこのアメジストは、彼女の喜びを充分に吸収し、より強い放射を与えるだろうと思われた。一番喜んでいるのは彼女の母親だろうから・・・。