昭和58年秋に開店した私の店は、それ迄私のデザインを採用製造していた工場から、直接仕入れて販売するというスタートであった。当時は、日本に"鋳造"技術が定着した直後で収めたデザインは、一つの原型で大量に生産されていた。
ほぼ20年を経た現在、まだまだ少量ではあるが、その頃の見覚えのある製品が、リフォームされるべく目の前に登場する様になって、何か申し訳ないような気分にもなるが、一方では、自分の感性が時代と共に確実に進歩してきたという喜びを密かに感じていて、人生の前半期に努力したことを後半期で訂正し尽くしたいものよと、前向きに楽しんでいる。
Yさんに買って頂いたルビーのリングとヘッドはその様な見覚えのある品だった。ご主人がタイへ"農業指導"に行き、現地の方のお世話でサファイアを買ってきたので、作り替えたいと来店なさる。「リングもヘッドもなんとなく淋しくなって・・・・、私は数はいらないので・・・」という理由で、ルビーとサファイアを一緒にして創ることになる。
確かに45歳位以降は、ほとんどの方に重厚さが加わり若い時のジュエリーは似合わなくなる。そうなることが自然の理に合致していると思っている。Yさんのリングは良質の小判型のサファイアを中石にし、角型をヘッドに使用。材料を余さず、精一杯シンプルに、と考えた。善良で控えめで、華美がにがてなYさんが、心地よく使って下さる様に願いながら・・・・・。