来店の1ケ月程前、当店のHPをご覧下さったというS様は、「94歳になるおばあさまから譲られたリングをリフォームしたい......」という内容に、譲られたリング達の説明あれこれ等、親しみ満載の長いメールを下さった。その後も、「お祖母様のいる広島に帰ってきます......」というメール。
6月に入った日曜日、突然電話がありS様ご夫婦がつくば市からご来店。お祖母様が突然亡くなられて広島に帰った由、昔からの親類の様な話が続き、つい私も仕事そっちのけで主人が亡くなるまでの話をしてしまった。
リフォームは縦15ミリ横11・5ミリの翡翠とダイヤ一文字・ダイヤV字の2本、合計3本で、シンプルな普段使いの翡翠のリングをご希望。S様の手を見せて頂くと、サイズ9番ですらっと長い手で小指側の付け根の下がりが大きかった。
大きな石を普通の真っ直ぐなリング腕にした場合、S様の薬指の中央には収らず、小指側に傾くに違いないので、その旨の説明をもうしあげた。
しかし「お任せします」というご返答で、加工代金の話には触れようとなさらない。頭から私を信用下さっている事がありありと解り、大きな石が手に密着して薬指に真っ直ぐ安座するデザインにするには、どうしても20万以上はかかってしまう、その事を言い出すのが苦しくなり、「シンプルにリング腕真っ直ぐにしてしまいましょうかー、そうすれば売却代を引けば、10万位で出来ます」と言ってしまった。又「お任せします」というご返答でお帰りになられた。
その後一週間、自分の心の弱さに良心が悩み苦しんで、苦しんでメールを送る。「S様のすらっと長い手を思い出す度に、リング腕は下げた方が......」と。
三度目の「お任せします」に、任されることは「良心に添うこと」と頭で解っていた事の、強い実感が、実行力のない自分を叱咤した。
出来上がりを取りに来てからのS様のメールは"褒められた話"が続いている。